喫茶・珊瑚礁にて
喫茶珊瑚礁にて
それは9月の日曜日、残暑厳しい夕暮れのこと。
彼にとって、招かれざる客が、店内に入ってきた。
「いらっしゃいませーーーゲッ・・・」
佐伯瑛は、自分の担任である若王子教諭と眼を合わさないようにする。
(なんで、若王子が・・・・!?)
店内は、海開きも終わった海辺の茶店、時間帯もあって、客はかれだけだった。
「外のテラス席へ行っていいですか?」
「・・・ええっ構いませんよ・・・どうぞ」
佐伯は彼をテラス席へ導く、内心、バレてしまわないかビクビクしているが平常を装う。
髪をオールバックにして、学校では見せない表情で・・・しかし、この男、トボけたように見えて頭の切れは抜群だから・・・
「この、珊瑚礁ブレンドって、どんなの?」
「銘柄は、ブラジルを中心に、モカ、グアテマラ等を少しずつブレンドした、少々酸味の強いーーー」
スラスラといつもの様に、コーヒーの説明をする。
「じゃあ、それにします」
「かしこまりました」
丁寧にドリップされたコーヒーから、何とも言えない芳醇な香りが漂う。
「お待たせいたしました」
「やや、いい香りです」
「それでは、ごゆっくり」
「ありがとう、”佐伯”くん」
「えっ・・・」
「どうです、お客さんもいないようだし、よかったら、少しお話しませんか?」
「な、なんで・・・??」
「ん?、美味しい」
若王子が、そっとカップを戻す。夕陽に照らされ海風に靡く色素の薄いくせっ髪、整った顔立ちに陰影が映り、
グリーンの瞳が輝いている。組んだ長い脚、男の自分が見ても、モデルみたいに思ってしまう。
佐伯は、しぶしぶ反対側の席に座る。
「・・・・・・何です? 隠れてバイトしてる事ですか? ったくアイツめ・・・」
「アイツって、鮎川さんのこと? 彼女はそんな余計な事はいいませんよ。僕は、君の事、薄々感づいてましたから」
二口目のコーヒーを啜り、一息つく。
「君が、何か事情があってアルバイトしていることは、口外する気はありませんよ。学業や生活に支障がある訳でもない。
要は自己責任でしょ。僕が言いたいのは、そんな事じゃなくて」
「じゃあ、何なんだよ? いや、何ですか?」
若王子はニッコリと笑って、でも、眼は笑っていなかった。
「はい、ぶっちゃけ、俺の女に手を出すな!??? みたいな」
「はあ???」
「友人として接するのは構いません。でも、彼女は渡さない」
「・・・・・・・・・」
「君は、彼女の前だと、素の自分を出している。まあ、僕もだけど」
「人の感情なんて、どうにもならない事は分かってます。けど、彼女の帰る場所は君じゃない」
「・・・・・・そんなのとっくに気付いてますよ。アイツの心の中に、いつも居るのは、若王子先生だって
なんで、そんな、自慢かよっ! ああ、どうせ俺は!」
佐伯が声を少し荒げる。
「佐伯くん、ごちそうさまでした。そろそろ帰ります。これから淑江さんを迎えに行きますので」
若王子が代金をテーブルに置く。佐伯はふてくされた表情で、海を眺めていた。
「今日は彼女が夕飯を作ってくれるそうです」
「結局、のろけと自慢をしにきただけなのか?? ったく何だよ」
「はい、その通りです」
ニッコリと微笑む若王子、その飄々とした笑顔を睨んだ。
(やっぱり、俺は、コイツが苦手だ。いや、嫌いだ!)
