ラストギフト 後編

 

そのあやしげなショットバーは、喫茶アルカードが入っている駅ビルの地下にひっそりと存在していた。
こんな昼間から営業しているのか、それともスコットが無理矢理開店させたのか、組織のアジト的な店なのか・・・
店主も誰もいない、スコットは勝手知ったるのか自分でグラスと氷とバーボンを用意した。

「どうぞ」
「・・・・・・」
若王子は警戒しながらストールに腰掛け、グラスの液体を嗅いだ。
芳香なバーボンの香り、睡眠薬とかは入ってないだろうな。
「あなたと話をするためにここへお連れしました。”ただの” ウイスキーですよ」
「さて、単刀直入にいいます。私たちと研究所に戻ってください」
「難しい日本語を知ってるね。エージェントなんか辞めて通訳でもすればいい」
「ご忠告どうも。で、どうしますか?」
「・・・イヤだ。と、言ったら?」
「あなたの大切な、例の女生徒には私の部下を監視にあります。彼女の危険が危ない事になります」
所々妙な日本語になっている所をみると、通訳はムリかもしれない。

(イヤだ! もうあんな所には二度と戻りたくない!! でも、僕がいることによって、彼女や生徒が傷つくことになるのなら・・・
僕は決断しなければいけないのかもしれない)

その時、バーの扉が開いて備え付けのカウベルが鳴り、そこに現れたのは・・・
「た、鮎川さん!」
「お願い・・・若王子先生を連れて行かないで・・・」

見覚えのある、あの男だ。。。
駅前広場で先生と待ち合わせをしていた時、険しい顔で先生は英語で会話をしていた相手が目の前にいる。。。

竜子たちが追っかけていたのは、この人の仲間なのだろう。
きな臭い連中が若王子を拉致しようとしている、自分を利用して。
密から聞いた話では大体こんな感じだった。

「どうしてここが・・・??」
「竜姉と密ちゃんが、この人の仲間に聞いたそうです・・・」
「・・・ふう、どうやら私の部下は使えないようですね」
黒服がため息をつく。
「先生を連れていかないで! 若王子先生がいなくなったら私・・・
生きていけないかもしれない・・・・・・」

(!?)

「鮎川さん、僕がいなくなったら、どう思う?」
「哀しみます。哀しくて哀しくて、死んじゃう道を選ぶかもしれません・・・」

僕は立ち上がり、彼女を抱きしめた。

(・・・・・・僕は、結局、自分のことしか考えていなかったんだ!
僕がいなくなることで、こんなに哀しんでくれる人がいる・・・
僕がいなくなることで、組織からの物理的な危害からは守れる・・・
でも、僕がいなくなることで、心を病んで死んでしまう人がいたら何にも解決しない!)

扉のカウベルが、けたたましく鳴り響く。
ドタドタと同じ制服を着た女子生徒が4人入ってきた。背が高いのと低いのと、様々だ。

「若ちゃん! 助けにきたで!」
「お願いします! 若王子先生を連れていかないで下さい!」
「若王子と淑江になんかあったら、あたしがタダじゃおかないよっ!」
「どうしても連れていくのなら、私たちも全力で阻止するわ!」
「き、君たち・・・・・・?!」
はるひ、千代美、竜子、密が加勢? してきた。

 

お互い無言のまま、重たい時間は過ぎてゆく。
淑江が覚悟を決めたような表情で、スコットに話しかける。
「どうしても、若王子先生を連れて行くのなら・・・私も連れていって下さい・・・」
「あなたを連れていくメリットは、我々にはありません」
スコットが飽きれたような態度をとる。

「・・・そんなことありません。私の、私のお腹の中には、
若王子先生の赤ちゃんがいます!」

「!!!???」

「え~~~~~~~っ!!!」

一同、みんな驚いて引っくり返る。

「わ、若王子てめぇ~」
「や、やるな・・・淑江」
「な、そんな不道徳です! 風紀が~~~」
「フフ、おめでたいわ。やったぁ!」

「ちょ、皆さん! そんなことは・・・」
淑江は若王子の口元に人差し指を充てる、そして、ウインクをしてみせる。
(・・・・・・ああ、うそも方便、ハッタリか。これが成功するかどうかはビミョーだが・・・)

「それで、Dr若王子」

スコットが語りかけると、はるひ達は黙って様子を見ることにした。

「生徒の安全を保障する代わりに、あなたは私たちと来る。
生徒に危害が及ぶリスクはあるが、今のままの生活を続ける。
さあ、どうしますか?」

若王子は海晴の肩を抱いて、彼女と微笑み合う。

「僕の選択はただ一つ、僕の周りに哀しむ人を作らないこと」

若王子と5人の女子生徒は、スコットに挑むような眼差しをむける。

「あなたは、生徒から大変に慕われているのですね・・・」

「・・・・・・わかりました。Dr若王子、あなたは随分変わりましたね。彼女の影響ですか?」
「そうだね。彼女といると、人間でいられる・・・」

「・・・このまま帰ります。本部には、あなたはもう、この町に居なかった。消息は不明。と報告しておきます」

「・・・スコット・・・」
「やった~~~!!」
はるひ達が手を取り合って喜んでいる。

「あなたも父親になるのですね。幸せな家庭を作ってください。GoodLuck」

「・・・・・・」

スコットは静かにバーを出ていった。